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それが来たのは丁度小休憩が始まった頃だった。 “ 今日、行くよ ” それは本当に微かで、蝶々はすぐにさらさらと消えてしまったけれど確かに聞こえた。なるほど、これが式とかいう奴か、初めて見た。 「今イルカの肩に蝶々が留まらなかった?」 「え、そう?俺見えなかった。」 「見えたような気がしたけど気のせいかも。」 ふーん、人によっては見えたり見えなかったりするらしい。ま、すぐにみんな蝶々のことは忘れて校庭に遊びに向かったのだが。 「今度は受かりたいなあ。」 イルカはため息を吐いた。 「今日も気合い入れていくぜっ。」 見てろよ、とイルカは息巻いて包丁を手に持った。 夕方になり、大体の準備が整うとイルカは食器を戸棚かから取りだした。すると玄関が開く音がした。カカシだろうか。 「思ったより早かったな。でも丁度良いぜ、上がれよ。」 カカシは頷いてサンダルを脱いだ。 「今日のおかずはなに〜?」 間延びた声がしてイルカは呆れながらも答えた。 「今日は牛丼だ。おかわりあるからもりもり食えよっ。」 にかっと笑うとカカシは嬉しそうに頷いた。 「いただきますっ」 パンっと両手を合わせてどんぶりに入った牛丼をかっくらう。カカシを見ると、がつがつと音がしそうな程に食べている。よかった、嫌いな種類のものではないようだ。 「今日、式が来たじゃん?」 「まあ、飛ばしたからねぇ。」 「見える奴と見えない奴がいたんだよ。それにすぐに消えちゃったし。あれってどうなってんの?」 「まあ、色々と用途によって大小、能力も様々に変えられることができるんだけど。今回はイルカ一人に伝えればいいだけの小さな、そして効力も最小限にしたから、幻術が得意な者には見えたかもしれないし、普通の感覚の人だったらあんまり目に見えないものだったと思うよ。式は紙の性質のものが多いから、用が終われば紙片になる場合が多いけど、俺の場合はチャクラで実態をつけただけだから、終わったら消えるシャボン玉みたいなものだと思えばいいよ。」 ふーん、と相づちを打ちつつ茶碗を洗っていたが、頭の中ではこいつって結構すごいんじゃないの?と思い始めていた。 「カカシは今日、どうだったんだよ。任務だったのか?」 「うん、まあね。ちょっと体力使ったけどばっちりこなしてきたよ。でも途中で変な奴に会ってさあ、」 カカシはそう言って話し出した。 「最初20代くらいの男かと思ってたんだけど話しを聞いたら俺と同じくらいだって言うからもう、ちょっといっそのこと哀れに思ったね。」 「へえ、そんなに老け顔だったわけ?」 なるほど、それでさっきは笑ったのか。思い出し笑いってやつだな。 「顔も体格も雰囲気も少年じゃなくて青年って感じだったし。思えばあの外見でそれなりに大変な目にも遭ってるのかもなあ。中忍だって言ってたし。」 口元で笑いながらもカカシはそう言って思いを馳せているようだった。同じ中忍同士で何か思うことがあるのかもしれない。なんだかいいなあ。 「猿飛アスマって言ってたけど、そういえば猿飛ってことは三代目の血縁関係なのかねぇ。」 カカシの呟きに俺は持っていた箸を流しに落とした。 「なに、もしかして知り合いだった?」 俺の行動にカカシはピンポイントな意見を出してきた。そうだよ、知り合いだよ。つってもアカデミーで少しだけ一緒だっただけなんだけどね。 「俺がアカデミーに入学した頃に卒業していく人でさ。ほら、入学する前に就学時検診っつって身体検査があるじゃん。その時に卒業していく生徒に手を引いてもらって学校案内とかしてもらうだろ?その時に俺の担当してくれた縁でたまーにアカデミー以外でも遊んでもらったりしてたから。でも中忍になってからここ最近はあんまり姿を見てなかったけど、そうか、そんなに老けてたかあ。」 そういえばアカデミー生の時ももう大分他のアカデミー生とは雰囲気が違ったような気がしたな。そっか、初対面の人でそこまで間違えられるってことはあれからまた一段と老けに磨きがかかったわけだ。なまじどーんと物怖じせずに構えるようなタイプだから余計に誤解されやすいんだな。中身はまだまだ10代だって言うのに...。 「そうなんだ、そんなに有名とは知らなかったな。下級生に人気があったってこと?」 「うーん、まあね。カカシは聞いたことないの?そう言えば同じ中忍同士なのに顔も知らなかったなんて、カカシってば案外顔覚えるの苦手な方なの?」 「いや、別に苦手ってわけじゃないけど。なんて言うか、今まで里外の任務が多かったから顔を合わせる機会がなかっただけ、かな。それに俺、アカデミーにはそんなに長いこといたわけじゃないし、卒業したの随分前だからなあ。」 「随分って言っても数年前だろ?」 「うん、そうだねえ、確かに数年前だ。8.9年前かな。」 ...聞くんじゃなかった。でも好奇心というものは後から後から沸き上がってきてしまう。 「なあ、言いたくなければ言わなくていいんだけど、中忍になったのって、いつ?」 「ん〜、6歳の時だったかなあ。」 至極なんでもないことのように言ってカカシは最後の一枚を拭き終わった。 「そういえば怪我はどうなの?この間はとりあえずの応急処置しただけだったから帰ってから少し気になってたんだけど。」 気にしてもらってたのか、なんだか気恥ずかしいなあ。元々俺の無理が祟って怪我したんだからみっともないって言うか、ちょっと格好悪いよな、俺。 「包帯はちゃんと毎日替えてるの?ざっくり切れてたから膿んだりすると痛いよ?」 「あー、そう言えば今日はまだ替えてないな。」 言われて思い出すと、カカシは立ち上がった。そして救急箱を取ってきて俺の前に座った。忍びの家なので救急箱はわかりやすい場所に置いてあるのだ。万が一怪我してもすぐに対処できるように。 「あの、カカシ?」 カカシの行動に少々の不安を覚えつつ、俺は聞いたのだが。カカシは何でもないことのように、怪我、放っておくと化膿するから。と言って包帯を外し始めた。こいつ、最初から思ってたけど怪我に過剰に反応してないか? 「カカシは心配性だねえ。こんな怪我は日常茶飯事だっつの。」 それでも包帯を替えた方がいいのは本当なので、折角だからと俺はカカシにまかせることにした。 「仲間が怪我しているのを見るのは、辛い。死ぬのはもっと、辛い。」 その言葉がどんな意味を持って発せられたのか、俺にはよく解らなかった。けれど、天才で小さい頃から任務をしてきたこいつは、俺の知らない黒いものも見てきたんだろう。 |